COLUMN

オレンジカフェで会おう

住み慣れた町に開かれた
地域の人がつながるカフェ
厚生労働省は、認知症に対する理解を深める場として、2018年度を目途にすべての市町村へ認知症カフェを配置することを目標としている。「カフェ」という名がつく通り、認知症でない高齢者はもちろん、高齢者と接する機会のない若者もウェルカムなのが認知症カフェだ。しかし、どんな素晴らしい試みも一時の盛り上がりで終わったのでは意味がない。時代や法律が変わろうと、つながることで得られる安心はかけがえのないものだからだ。オレンジカフェの取材を通じて、地域での役割を担うことの意味を探った。
photos : Nobuaki Ishimaru(d'Arc)
text : Yuko Kikkawa

地域に根差すオレンジカフェの秘密

 愛知県豊橋市。ここにちょっと変わったカフェがある。オレンジカフェときわだ。ときわは、認知症の啓発やその家族の支援などを目的とする認知症カフェであり、豊橋市で病院や老人保健施設、特別養護老人ホームなどを運営するさわらび会が母体となっている。

 運営を担当する中坪佐代美さんは、「オレンジカフェを始めて丸4年が経ちますが、今では入所者ではない方の参加がほとんどです」と笑顔で話す。中坪さんが勤務するのは地域密着型サービス事業所「常盤」。オレンジカフェは毎月第2、第4水曜日に同施設で開催されている。

 オレンジカフェときわの特筆すべき点は、入所者ではない方も参加するほど出入りしやすい「開かれた場」となっていることだ。なぜ、ときわに人が集うのか。「オレンジカフェときわがここまで盛況な理由は、その歴史にあります」と、さわらびグループの山本左近CEO/DEOは打ち明ける。

突然の閉院!
つながりは途絶えたのか

 「オレンジカフェときわが開かれている場所というのは、実はさわらび会の始まり、山本病院が1962年に開業した地なのです。理事長である山本孝之は、認知症治療と地域福祉の連携と向上に尽力してきました。1974年には京都から始まった『認知症家族の会』をいち早く発足し、以降は治療にとどまらず、先駆的に家族会やサロン会などを実施しています」(左近CEO/DEO)

 オレンジカフェときわの歴史は4年だが、山本病院時代の家族会やサロン会まで含めると、そこには実に半世紀以上の歴史があることになる。

 「ここまで順風満帆というわけではありません。2000年に厚生省の出した病院の建築基準が変更されたため、山本病院は廊下の幅が2センチ足りないことを理由に、閉院を余儀なくされました。法律とはいえ、当時はやり場のない悔しさがあったようです」(左近CEO/DEO)

 当時、入院中の患者はすべて重症の認知症の方ばかり。どこの病院にも受け入れてもらえないことから、山本理事長は福祉村病院(豊橋市)に3病棟目となる「さくら病棟」を新設し、患者に移院してもらったという。

 「患者様は移院していただくことで事なきを得ましたが、家族会やサロン会をどうするかという問題は残りました。山本病院の閉鎖後、皆様のつながりが途切れてしまうことが一番の悩みでした。家族会やサロンで生まれた、たくさんの出会いやつながりがあったからです」(左近CEO/DEO)

つながりが10年の時を経て
絆に変わった

 山本病院の閉鎖後、一旦は途切れたかのように見えた地域とのつながり。しかし、絆は途切れていなかった。
 閉鎖から十数年の後、山本病院の跡地に地域密着型サービス事業所「常盤」がつくられた。そこで最初に開かれた家族会に参加した方の一言を聞いたとき、左近CEO/DEOは感慨深かったという。

 「皆さんが、『おかえりなさい』と言ってくれたのです。そこに山本病院があったことを覚えてくれていたんですね。もちろん10年以上の時間が流れていたので、その当時、認知症患者さんだった高齢の方々がいらっしゃっていたわけではありません。『おかえりなさい』と言ってくれたのは、親に連れられて、子どもの頃に家族会やサロンに参加してくれていた方たちでした」(左近CEO/DEO)

 前出の中坪さんは言う。「私たちは無理にやっているわけじゃありません。やっぱり自分が楽しくないと、参加してくださる方も楽しくないと思うんです」
 取材に訪れた日に、オレンジカフェではゲームや歌のレクリエーションなどが行われていた。「楽しいからやっている」という中坪さんの言葉と、にぎやかな談笑の声がリンクする。

合言葉は「オレンジカフェで会おう」

 参加している方は、オレンジカフェをどのようにとらえているのだろうか。
 母親が入所者という染川聡代さん(57歳)は、オレンジカフェについて「在宅で母の世話をしていたときは、精神的に負担が大きく、たびたび姉に愚痴をこぼしていました。相談できる人がいないと、認知症とは長く付き合っていけない。身近にこういう場があるといいと思います」と打ち明けてくれた。

 また、友人のお見舞いに来訪していた林敬子さん(77歳)は、「オレンジカフェが大好き。とても明るい雰囲気だし、私たちのような高齢者に大事な話をしてくださるでしょ。勉強になるなって思います」と笑う。

 初回から参加している老人会「笑和会」の篠崎貴子さん(仮名)は、友人と近所でばったり会った時に、「オレンジカフェで会おうね」と合言葉のように言い合っているという。

 オレンジカフェの一番の目的は、認知症に対する理解を深めることだが、「◯◯をしなければいけない」といった決まりはない。5人に1人が認知症になる将来を考えれば、地元の人のつながりが強くなることは、大きなサポートとなるはずだ。

 その意味で、半世紀にわたって時代と地域に必要とされるサービスを提供して続けているさわらび会の歴史は特筆に値する。つながりを強め、絆を深める試みは、一過性で終わらせてはいけない。

 時代や法律が変わろうと、つながることで得られる安心はかけがえのないものであり、それこそが「地域での役割を担う」ということであるはずだ。「オレンジカフェで会おう」の一言が、そこに暮らす人たちの合言葉になったらステキだ。

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