COLUMN

85歳、現役。
人生100年時代の暮らし方

特別養護老人ホーム「さわらび荘」
渥美時子さん
人生100年時代の到来によって、「老後」という言葉の意味が変わろうとしている。仮に65歳で定年退職したとしても、その後35年超の「老後」が待っているかもしれないのだ。しかし、ネガティブにとらえるよりも、「死ぬまで現役」を目指したほうが人生はきっと楽しい。せっかくなら与えられた時間を楽しみ尽くしたほうがいい。特別養護老人ホーム「さわらび荘」で働いている渥美時子さんは現在85歳。「休憩時間なんていらないの」と笑顔を見せる渥美さんから、長生きを楽しむコツを探った。
photos : Nobuaki Ishimaru(d'Arc)
text : Yuko Kikkawa

「仕事をしている」という感覚はない

――渥美さんは仕事場である「さわらび荘」に現在も週4日出勤。洗濯や掃除、そして入居者の方々とおしゃべりを楽しみながら毎日を過ごしている。出勤して、制服に着替えるとすぐに働き出す。止まっているのが苦手だそうだ。

実は40代までお勤めなんかしたことなかったんです。結婚してからもずっと専業主婦で。子どもたちが大学に進学するようになって、少しでも家計の助けになればと思って働こうと決めたんですけど、資格も持っていないし、どこで働いたらいいのかすらわからなくて(笑)。

そんな時にふと、息子が子どもの頃にケガをしてお世話になった山本病院(現・福祉村病院)のことを思い出したんです。病院なら、私でもお手伝いできる仕事があるかもしれない。お掃除でもなんでもいいからお役に立てることはないかなと思って、当時は院長だった山本孝之理事長にご相談しました。そうしたら、「ちょうど欠員が出たので厨房で働きませんか」と言ってくださって。

それからずっと働いてきて、働くということが身体にしみついちゃっているものだから、仕事をしているという感覚はもうありません。
どうも汚れているのが嫌いで、苦になるものだから、ここが汚れているなと気がついたら、パッと身体が勝手に動いちゃう。休憩なんてなくてもいいなと思うくらい、働くことは私にとって日常のことなんです。

地方は車がないと移動が大変ですが、83歳のときにさすがに危ないと思って車を手放しました。それまで車で通勤していたので、さわらび荘にも通えなくなる、仕事もおしまいにしたほうがいいかな……と思っていたんですけど、「それなら迎えに行くから、お仕事を続けてください」と言っていただいて。よい職場に恵まれてありがたいなと思いました。

「なんで入院しなくちゃいけないの」

――しゅっと背筋を伸ばして、洗濯物が入ったカートを押す渥美さんのはつらつとした姿からは、85歳という年齢は想像できない。入院・手術の経験も一度きりだという。

私にお仕事をくれた山本理事長に、「渥美くんは、常に動いているから健康なんだ」と言っていただいたことがあります。私も自分はとても健康だと思っていたんです。少し歯が弱いから歯医者に通っていたくらいで。ほかはどこも悪いところがないので、病院にかかることがなかったんです。

ただ、2年くらい前に階段を上っているとき、ちょっと変だなと思うところがあって市民病院に行きました。そうしたら「心臓の弁が弱っているので、すぐに入院してください」と言われたんです。すぐさま手術を受けることになって、私が一番びっくりしました。
でもじっとしているのは苦手だし、特に痛いところもないから、市民病院の先生にお願いして1週間で退院させてもらいました(笑)。手術した直後、息子に「どこも痛いところがないのに、なんで入院しなくちゃいけないの」って言ったらさすがに怒られましたけれども。

入院したことで、改めて健康って大事だなと思いました。といっても、健康のために特別な何かをしていることはないんですが。おまんじゅうとかようかんとか、昔から食べているお菓子が大好きで、毎日欠かさず甘いものを食べますし。せいぜい腹八分目ですかね、気をつけているのは。

趣味といえば、唯一あるのが庭いじりくらい。この花(写真)はうちの庭から持ってきたんです。きれいに花が咲いたら、さわらび荘に持ってきてテーブルの上などに飾っています。
花の名前はあまり覚える気がなくて(笑)、ただ植えるのが好き。植物園かしらと思うくらいたくさんの種類が植えてあるんですよ。仕事がお休みで家にいる日なんかは、気が向くと庭に出て、枯れた花をつまんだりしながら手入れをしています。

家族の協力があるから現役でいられる

――「元気に働いていられるのも、家族の支えがあってこそ」という渥美さん。とりわけ義娘に対する感謝の気持ちは強い。

うちは5人家族で、息子夫婦と孫2人と暮らしています。家族みんな仲が良くて、大きくなった孫も一緒に毎年旅行にでかけるくらいです。
さわらび荘のみなさんにも助けていただいていますが、こうやって私が働き続けられるのは家族の力も大きいですね。一番は嫁のおかげだと思っています。

嫁が毎日食事を作ってくれるのですが、みんな社会人なので帰ってくる時間はバラバラ。それでも誰かが帰ってくるたびに天ぷらでもなんでも、できたての料理を食卓に並べてくれる。いつも何でもおいしくいただいています。嫁が頑張ってくれているから、こうして私は働いていられますし、家族も仲良くしていられる。

健康で毎日働けたらそれで十分。平凡な毎日ですけど、平凡が一番だと思います。「今日も平凡に過ぎたな」って思えることに、一番幸せを感じます。
でも平凡って、これがなかなか難しいんじゃないかしら。
だから私はこれからも、平凡であることに日々感謝して暮らしていきたいです。

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