COLUMN

「リタイアしない」という選択。
人生100年時代の暮らし方 part2

特別養護老人ホーム
「第二さわらび荘」
成澤純子さん
セカンドステージ、サードステージをどのように過ごすのかを考える高齢者が増えた。仕事やボランティア活動を通して社会との接点を持ち、多くの人と関わり続けることは脳の活性化につながり、認知症予防も期待できる。たとえば愛知県豊橋市に住む成澤純子さん(71歳)は准看護師として66歳まで勤め上げたのち、新しい職場で再スタートをきった。「特別なことは何もしていない」という成澤さんだが、歩くスピードや話す様子から身体機能の衰えはまったく見受けられず、充実した毎日を送っているのが感じられる。人生100年時代といわれ、「定年」という概念も大きく変化しようとしている昨今、成澤さんのような生き方が当たり前になる日は近い。
photos : Nobuaki Ishimaru(d'Arc)
text : Yuko Kikkawa

「また働かないか」という声がけに感謝

――成澤さんは、愛知県豊橋市にある福祉村病院で約27年間、准看護師として勤務。一度退職したものの、1年も経たないうちに仕事に復帰した。現在は特別養護老人ホーム・第二さわらび荘で、利用者の歩行訓練などをサポートしている。

最初に准看護師として病院で働き始めたのは、ちょうど昭和から平成に変わる直前だったと記憶しています。それからずっと、66歳まで働きました。
働かない生活になって、やっぱり緊張の糸が切れたんでしょうね。そのときはホッとしました。
でも退職して1年も経たないうちに、病院で働いていたときの元上司が「(同じグループの)特別養護老人ホームのほうで働いてみないか」って声をかけてくれたんです。

66歳まで働いて自分も高齢になったと思って退職したのに、また働けるかしら……と戸惑いました。でもせっかく声をかけてくださる方がいるのだから、このご縁を大事にするべきだと考え直して復帰しました。だから、さわらびグループにはずっと長くお世話になっているんです。

正直にいいますと、ずっと忙しく働いてきたのに、急に毎日がヒマになってしまって、ダラダラ過ごすことにも飽きてきた頃だったんです(笑)。動いているほうが、私には向いているのかもしれませんね。

こうやって今も働かせてもらえるのは、その元上司をはじめ、第二さわらび荘のスタッフ、家族の理解と協力があってこそです。家の用事などで都合が悪くなった場合でも事情を汲んで、お互いに助け合いながら働くことができています。

働くことは、元気をもらうこと

――毎朝自宅でラジオ体操をしてから出勤し、現在も9時から17時まで週5日働く成澤さん。小柄な体で館内をキビキビと歩き回る姿にはまったく年齢を感じさせないパワーがある。気がつけば、復帰からすでに5年目に突入したという。

今の職場である第二さわらび荘は、利用者様のフロアが2階、3階、4階と3つあります。その3フロアを上に下にと動きながら、困っていらっしゃる方がいないか巡回したり、理学療法士さんの指導のもと、機能訓練などリハビリのお手伝いをしたりするのが私のお仕事です。
病院は医療の現場、特別養護老人ホームは福祉の現場ですから、同じ准看護師の仕事でも内容は全然違うんです。

歩行訓練のお手伝いをするときは、利用者様が転倒しないようにしっかりと体を支えます。高齢者の方の転倒は危険です。ちょっとした転倒でも骨折しやすく、寝たきりの原因になることがありますから、見守ることが大事なんです。
一歩でも二歩でもご自分で歩けるようになっていただくための訓練ですから、私も精一杯お手伝いしています。

利用者の皆様とは、年齢が近いこともあり共通の話題が多いです。たとえばレクリエーションで私たちの世代に流行った歌を歌うときには、歌詞を本当によく覚えていらっしゃって。「私は1番しか覚えていない」と言うと、「年齢があまり変わらないのに覚えていないの」と聞かれることもありますね(笑)。そのあとに2番、3番と教えてくださるんです。いつも感心しています。

こうしたやりとりをしながら、どんどん今の仕事に慣れていきました。私は利用者様をサポートする役目ですが、私のほうが利用者様から元気をもらっているような気がします。

好きなことは買い物、洗濯、国内旅行etc.

――人生のセカンドステージともいえる特別養護老人ホームでの仕事に励みながら、家族旅行や病院時代の同僚との食事会など、プライベートも充実している成澤さん。今も社会の中に居場所があり、多くの人と関わりをもちながら暮らしていることがうかがえる。

病院で働いていた間は、とても忙しかったです。病院には本当にいろいろな方がいらっしゃるでしょ。私のような准看護師や看護師もいれば先生(医師)もいる。もちろん患者さんもいる。

大勢の人とやり取りしますから、考えが違うことはありますよね。いろいろなことを考えますけれども、考えても仕方ないということもある。自分の立場から考えたらこうなんだけどなと思うことでも、相手の立場に立って考えたら違うということはやっぱりありますから。
だから「ちっちゃなことだ」と思って忘れましょうと。そうすると心がスッとするというか、自然に忘れられるものなんですよ。

家事の中で一番好きなのは洗濯。お休みの日に天気がいいと「何か洗いたい、干したい」って体が勝手に動いてしまいます。まだ洗濯しなくてもいいものまで、どんどん洗濯しちゃうんです(笑)。一番のストレス解消法は何かと聞かれたら、それも洗濯かもしれないですね。

出かけるのは好きなので、近くのお店で洋服を見たり、病院時代の同僚が定期的に食事会を開いてくれるものですから、今でもたまにみんなで集まって思い出話をしたりしています。ありがたいですよね。国内が中心ですけれど旅行もします。夫婦で行ったり、嫁家族と一緒に行ったりね。一生懸命働かせていただいて、そのご褒美みたいなものでしょうか。

みなさんに語れるような夢なんてありませんけど、最後まで健康でいられたらそれで十分だと思っています。
人様にお世話にならずに、ある日ポックリと逝けたら最高ですよね。それはみなさんが理想とすることだと思いますし、こればかりは自分ではどうにも調整できないことですけれど……そうなったらいいなと思いながら毎日を過ごしています。

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