CROSS TALK
SAKON Dialogue : 027

バリア(障害)の価値を生かせるヒトになろう #2

垣内俊哉(株式会社ミライロ・代表取締役社長/日本ユニバーサルマナー協会・代表理事)
垣内俊哉
TOSHIYA KAKIUCHI
株式会社ミライロ・代表取締役社長、
日本ユニバーサルマナー
検定協会・代表理事
SAKON Dialogue : 027
バリア(障害)の価値を生かせるヒトになろう #2
前回(♯1)に続き、株式会社ミライロ・垣内俊哉社長と『長寿のMIKATA』編集長・山本左近とのクロストークをお届けする。株式会社ミライロは、バリア(障害)は「弱み」ではなく「他者とは違う価値」であるという視点から、多様な人々がもつバリアからバリュー(価値)を生み出す事業を行なっている。障害者に対して無関心または過剰な対応に偏りがちな日本人のハートをいかに変えていくか。車いすの人ほか多様な人が外出時に求める情報を共有するアプリケーション「Bmaps(ビーマップ)」に込めた想い、企業に向けたバリアバリューの伝え方など、ニッポンの未来を美しい色で彩るための意見を伺った。(下写真はユニバーサル検定2級の高齢者実技の様子/ミライロ提供)
photos : Nobuaki Ishimaru(d'Arc)
text : Yuko Kikkawa

ビジネスとしての価値も伝え、地方を動かす

山本左近(以下、左近):垣内さんは、障害者がよりよい教育を受け、より高い収入を得るためには、「環境」「意識」「情報」の3つの領域におけるバリアの解消が必要だとおっしゃいました。また、現時点でプライオリティを置いている順番は、「ハードは変えられなくてもハートは変えられる」という考えから一番が「意識」、次が「情報」、最後が「環境」ということですね(#1参照)。

垣内俊哉(以下、垣内): 「意識」のバリアについては、一人ひとりの「ユニバーサルマナー(多様な人々への心遣い)」を充足させていくことで解消していこうと。それから「情報」のバリアに関しては、たとえば車いすの人が行きたい場所に行けるかどうか、どれが行きやすい道順か、どこで自分が買い物や食事ができるのかといった情報が少ないので、そこを解消しようということです。

左近:障害者や高齢者の雇用を増やす、そして、彼らとの向き合い方を知らない人への教育を目的として「ユニバーサルマナー検定」をつくられたと先ほど伺いましたが、たとえばそういった「情報」を伝えるという点においては、御社は「Bmaps(ビーマップ)」(※1)というアプリを提供していますね。
※1 障害者や高齢者、ベビーカー利用者、外国人など多様なユーザーが出かけるときに求める情報を共有・発信するアプリケーション。

垣内: そうですね。日本の飲食店はなんとなくバリアフリー化が進んでいないと思われがちですが、公共インフラにおけるバリアフリーの水準でいえば日本は世界トップクラスです。
また「Bmaps」には、飲食店をはじめとする車いすでも出かけられるお店や場所が、国内外で約15万2000ヶ所、東京都内だけでも8万店舗以上のお店が掲載されています。一生かかっても回りきれない数です。単に知られていない、知る方法がないだけなのです。

そもそも日本は障害者が出かけることが少ないと言いましたが、障害者の意識についていえば、働こうとしない、稼ごうとしない人の理由は明らかです。それは、稼いでも意味がないから。なぜ稼いでも意味がないのか、それは稼いでも使える場所がないと思っているからです。

障害のある人が求めている情報を充足していくことにより、「ここで食事したい」「この場所に旅行したい」と障害者側は消費意欲が高まり、就労意欲も高まります。そして就労意欲が高まるほど、「もっと勉強して就学の機会を得よう」という向上心も高まるわけです。

左近:なるほど、外出する意欲を高めることにもつながっているのですね。

垣内:ただ、地方での移動は車が中心で、公共交通を利用する機会が少ないですよね。東京、神奈川、福岡、札幌あたりならバスや電車、タクシーに乗ることも多いので、障害者を見かける機会が自然と多くなりますが、地方では接する機会が少ないのが現状です。

町で障害者を見かけない。その結果、接し方に慣れない、社会全体が慣れていないので、障害者雇用を積極的にやっていこうという話にもならない。いかにして地方においても障害者が外出しやすい環境をつくるかが特に重要であって、飲食店や観光地などのバリアフリーをまだ推進していく必要がある。意識が変わることで「環境」のバリアの解消につながっていくようにしたいですね。

左近:僕は愛知県豊橋市の出身なので、地方では自宅から目的地までの移動は車中心というのはよくわかります。そういう意味でいうと、地方は都市部よりも地域コミュニティがつくりにくいという現状がありますね。

垣内:たとえば鳥取県に関しては、平井伸治知事がかなり熱心に取り組んでくださり、722台(編集部注:2017年9月時点)ある鳥取県のタクシーのうち200台は車いすごと乗れるUDタクシーを導入されました。町中で4台に1台は車いすで乗れるので、やはりみなさんの外出する機会も増えたそうです。
町で障害者を見かけるようになり、結果として飲食店にも障害のある人が来られるようになったので、店舗をバリアフリーにしなければという意識が皆に芽生えています。ここ2、3年は、各企業の関心、社会の意識が高まりを感じていますね。

左近:県知事が熱心なのは素晴らしいですね。障害者と触れる機会が比較的ある都市部はユニバーサルマナーを広めることで変わっていきそうですが、地方における施策は、東京とは変わってきますか?

垣内:自治体の施策に任せているだけでは限界があり、やはり企業の協力がなければ難しいでしょう。
たとえば東海地方を中心にウェディング事業を行なっている株式会社ブラスですが、私たちがコンサルティングを担当させていただき、結婚式場はバリアフリー化されています。結婚式には車いすを使うご高齢の方、足が不自由なご友人などが参列することなんて、ざらにありますよね。
施設はバリアフリーで、ユニバーサルマナーを理解しているスタッフがいる結婚式場。「気持ちよく利用できるから、この結婚式場がいい」「この結婚式場だから式を挙げたい」という選定理由に貢献できれば、ユニバーサルマナーは経済価値になります。

左近:どちらかというと、単に社会貢献的な視点だけでなく、そういった経済的な視点から価値を語れる人を増やしていきたいですよね。

垣内:企業の判断基準はビジネスとして経済価値が認められるものであるかどうか。認められれば当然地方でも進んでいくわけです。企業に社会貢献を押しつけるのではなく、「この取り組みを通して、利益を上げてください」と高らかに伝えてあげることが重要です。社会性と経済性の両輪あってこそのバリアバリューであると伝えていかなければいけません。

バリアの価値をお涙頂戴で伝えてはいけない

左近:ミライロは、すでに企業に対して「バリアバリュー」は社会的に意義があるというだけでなく、ビジネスとしての価値も提供しています。ただ僕は、地方にいる障害をもつ方自身が、もっと地方の企業に情報を発信していく機会を増やすことも大事だと思うんです。地元で生の声を聞く機会をつくるようなマッチングは何かされていますか。

垣内:そうですね。マッチングというよりも問題は声の伝え方だと思っています。「私たちは困っています、大変です」と、いわゆるお涙頂戴話をしてしまうのではなく、「ここを変えたら、これだけ利用者が増え、結果売り上げが伸びます。だからバリアフリーにしましょう」と、同時に正しく伝えられる人を増やしていくことが大事だと思います。

左近:障害者の方々に、そういった伝え方の教育もされているのでしょうか?

垣内:障害者や高齢者の方をユニバーサルマナーの講師として雇用しているとお伝えしましたが、その講師を全国で育成しています。バリアフリー化やユニバーサルマナーの普及に経済価値があることを理解している講師が各地で活躍されていますので、まずは講師を増やしていくことをチャレンジしているところです。

左近:ユニバーサルマナー検定の講師の方々は当事者であり、声を伝える人でもあるということですね。

垣内:はい。また、声が大きい人の意見だけに耳を傾ければいいのかといえば、そうではありません。「バリアフリーを進めます」と企業が立ち上がったものの、障害者2、3人に聞いてつくりましたという例があります。車いすユーザー100人、視覚障害者100人、聴覚障害者100人……と、すべての障害者に聞いたわけではないんですね。

たとえば、数人の障害のある方の意見だけを聞いて、できあがった空港もあります。意見を聞いていない一部の障害者には対応できていないという状態になってしまいました。さまざまな障害者の視点、経験、感性をいかにモノづくり、サービスづくり、まちづくりに生かしていくかが、これからは特に重要なことだと思います。

左近:「こうしたほうが利益が上がりますよ」「業績が上がりますよ」といった伝え方を、障害者自身がしっかりと学んでいくことも大事ですよね。当事者の方々へのアンケートやモニタリングを行う「ミライロ・リサーチ」という事業もされていますね。実際に参加している方々はどんな風にご自身のバリアバリューを感じていらっしゃるんでしょうか?

垣内:講師もそうですが、「ミライロ・リサーチ」で行なっているバリアフリーなどに関するアンケートでは、当事者としてスペースの空きがないくらいの答えを書いてくださる方が多いです。それくらい自分の思いを伝えたいと考えている方がいます。ただこれまでは、その声をまとめる役がいなかったので、社会に届きにくかった。だからミライロがスピーカーになって、一人ひとりの声を責任をもって届けていきたいと考えています。

左近:確かに声を束にするということは、すごく重要です。そこに報酬も生まれていますね。

垣内:アンケートに答えてくだされば、500円や1000円などの報酬をお渡ししています。小さな額かもしれないけれど、価値は小さくないと考えています。重要なことは、いつでも、どこでも、どんな状況でも働けると伝えることなんです。
正規雇用だけでなく、社会に参加する手段はいくらでもあると。自分たちの視点が誰かの役に立ち、かつ、お金にも変わっていると。たとえ障害があって外に出られなくても、病室にいても、寝たきりであっても、みなさんの経験を、視点を、感性を求めている企業や街があると。それを伝えることに強い使命感をもっています。

左近:障害をもった方たちのそれぞれの経験や視点にはバリューがある。それを生かすことでお金になり、社会も変わると気付くことができますね。

垣内:たとえば昨今は、進んでいるかいないかはさておき、女性活躍を推進しようという動きがありますが、これは当然、社会の動きを意識したものです。日本の人口を100人だとしたら、男女の比率は49人が男性で51人が女性と、女性のほうが多い。これだけ女性がいるから、声も大きくなりやすいわけです。一方の障害者は、100人のうち7人程度しかいない。日本の人口の7%程度なので声が大きくなりにくく、社会に広がりにくいという側面があります。(図A参照)



日本で障害者福祉が叫ばれるようになったのは1948年頃のことで、当時傷痍軍人が2000万人もいたからこそ、急いで解決すべき課題として捉えられたのです。単純に比較はできないものの、当時の半分しか障害者がいない現代では優先度がやはり下がってしまいます。だからこそ、バリアバリューを伝え続けるしかないんです。

「目が見えないからこれができるんだ」「歩けないからこれができるんだ」くらいのことを言えるような未来をつくりたい。私たちが日本で培ったノウハウや実績をもとに、今後は世界でもバリアをバリューに変えていきたいです。

左近:多様な人との向き合い方の教育は、ユニバーサルマナーみたいなフォーマットが重要で、こういったものを国策に取り入れていけたら、より拡大していくと思います。僕も介護の専門学校に携わっている立場として、バリアをバリューに変え続ける垣内さんを応援しながら、一緒に未来を見届けていきたいです。
本日は本当にありがとうございました!
垣内俊哉
TOSHIYA KAKIUCHI
株式会社ミライロ・代表取締役社長、
日本ユニバーサルマナー
検定協会・代表理事
1989年、岐阜県中津川市生まれ。生まれつき骨がもろく折れやすいという「骨形成不全症」を発症し、小学校・中学校は入退院を繰り返す。高校入学後に、どうしても自分の足で歩きたいとリハビリに明け暮れるも、歩けるという望みが薄いと悟り、歩けなくてもできることから、歩けないからできることを探し始める。立命館大学経営学部在学中に多数のビジネスコンテストで受賞し、20歳で起業。障害を価値に変える「バリアバリュー」の視点から、ユニバーサルデザインのコンサルティングや、バリアフリー情報をまとめたアプリ「Bmaps(ビーマップ)」など、自社コンテンツおよびサービスを開発。2015年日本財団パラリンピックサポートセンターの顧問に就任。2019年4月からは、龍谷大学社会福祉学部客員教授として教壇にも立つ。
山本左近
SAKON YAMAMOTO
さわらびグループ CEO/DEO
レーシングドライバー/元F1ドライバー
1982年、愛知県豊橋市生まれ。幼少期に見たF1日本GPでのセナの走りに心を奪われ、将来F1パイロットになると誓う。両親に土下座して説得し1994年よりカートからレーシングキャリアをスタートさせる。2002年より単身渡欧。ドイツ、イギリス、スペインに拠点を構え、約10年間、世界中を転戦。2006年、当時日本人最年少F1デビュー。2012年に日本に拠点を移し、医療法人/社会福祉法人の統括本部長として医療と福祉の向上に邁進する。2017年には未来ヴィジョン「NEXT55 Vision 超幸齢社会をデザインする。」を掲げた。また、学校法人さわらび学園 中部福祉保育医療専門学校において、次世代のグローバル福祉リーダーの育成に精力的に取り組んでいる。日本語、英語、スペイン語を話すマルチリンガル。

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