CROSS TALK
SAKON Dialogue : 019

あらゆる人が混じり合う場を日常に #2

藤岡聡子(福祉環境設計士)
藤岡聡子
Satoko Fujioka
福祉環境設計士
SAKON Dialogue : 019
あらゆる人が混じり合う場を日常に #2
前回に引き続き、福祉環境設計士の藤岡聡子さんと山本左近のクロストークをお送りする。藤岡さんは「福祉や町」、「教育と福祉」をキーワードに、あらゆる人が混じり合い、福祉や介護、そして死について考えるきっかけとなる場をつくりたいと活動している。今回は、藤岡さんが仲間の紅谷浩之医師とともに2020年4月開業を目標に軽井沢で準備を進めている「ほっちのロッヂ」に関する話が中心。藤岡さんらがこの新たな場で目指す「ケアの文化拠点」とはどんな施設で、どのようなケアが行われるのか。これまでにない全く新しい試みゆえ問い合わせも多いという。未来の医療福祉のカタチを考えるうえでも注目の新プロジェクトだ。
撮影協力:ゲストハウス「シーナと一平」(東京都豊島区)
photos : Ren Arimura(d'Arc)
text : Yuko Kikkawa

人は場所ではなく、人に集う

山本左近(以下、左近):藤岡さんの場づくりは、長崎二丁目から軽井沢町に場所を移し、医療の領域にも広がっていくことになるんですね。2020年に「ほっちのロッヂ」を開業予定と聞いていますが、これは訪問診療をベースにした施設になるんですか?

藤岡聡子(以下、藤岡):診療所と通所介護施設、病児保育、そして訪問看護ステーションがある施設になるのですが、目指しているのは「ケアの文化拠点」です。
病状や状態、年齢に関係なく人が集まって趣味に没頭したり、それぞれが好きなことをしたりできる表現の場にしたいとも考えています。だから、「今日は要介護の人がひとりも来ていないね」という日があってもいいと思っています。

ちなみに「ほっち」とは建設予定地の住所で、「軽井沢町大字発地」の「発地」です。「ほっちのロッヂ」の完成イメージを友人に伝えて描いてもらった絵があるので見ていただけますか。



左近:果樹が植えられていますね。これはリンゴですか?

藤岡:そうです。実際はリンゴじゃなくてもよいのですが、訪れた人たちが気軽にもぎ取って食べられるようなものを植えたいと思って。家族の方が「ちょっとお父さん、リンゴを取って」と声かけて、取ってもらったり。
手芸スペースや美術室もつくります。足湯は予算的に無理だとわかり諦めましたが(笑)。使い方はここを訪れる人に決めてほしいんです。何でもあるから好き勝手に使ってくださいねと。



左近:おもしろいですね。次の場所を軽井沢に決めたのはどうしてですか?

藤岡:軽井沢町にご縁ができたからです。私の友人が幼稚園・義務教育学校をつくると耳にして、そのビジョンを聞いたら、私たちが構想している福祉の在り方ととても近しいものを感じました。
教育の場と「ほっちのロッヂ」という福祉や介護の場を横断することで、どんな光景が見えるんだろうと思ったら、もう絶対にやってみたいと思ったんです。

左近:なるほど。

藤岡:人は結局、場所ではなく人に集うものだと思うんです。私自身、「長崎二丁目家庭科室」でもそうでしたが、「この人と一緒にやりたい」と思ったところに行く。「ほっちのロッヂ」もそうですね。

「ほっちのロッヂ」の共同代表者の紅谷浩之(べにや・ひろゆき)は、厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」改訂に関する検討会の構成員を務めたり、国内在宅医療における指針策定に関わったりしています。

どんどん人を巻き込み、淀みをなくす

左近:藤岡さんにこの「シーナと一平」(#1)でお会いする前に、実際に歩いて回ってきたんです。商店街あり、住宅あり、洋裁店なのに惣菜店でもあるという面白いお店もある(笑)。住宅がかなり密集している地域だなと思って調べたら、長崎地区の人口は約1万8000人(※1)でした。
※1 長崎1〜6丁目の人口1万8408人、平均人口密度2万2308人/㎢。豊島区「町丁別の世帯と人口」(平成31年2月1日現在)調べ。


藤岡:軽井沢町は1万9000人程度(※2)ですね。
※2 人口1万9093人、人口密度122.37人/㎢。「平成30年度 軽井沢町の統計」調べ。


左近:人口はさほど変わらないけど、長崎地区と軽井沢町の人口密度は全然違う。だから人の集い方がまるで違ってくると思うんです。

僕が運営している医療法人・社会福祉法人さわらびグループの福祉村というコミュニティは愛知県豊橋市にあります。中核都市の駅から車で20分という立地です。都会で成功したプロジェクトでも地方に持ち込むと盛り上がらなかったという事例はあって、「長崎二丁目家庭科室」ではできた「ふらっと立ち寄る」ということが、「ほっちのロッヂ」で行えるのかなという点は気になります。

藤岡:おっしゃるとおりです。地方だと主に車移動になるので、「自宅と最寄り駅の間にあるから、ふらっと立ち寄れる」という偶然を生むことはできませんね。わざわざ来てもらわないといけない。そこは課題だと思っています。

左近:藤岡さんが「長崎二丁目家庭科室」を始めたとき声がけされたように、「ほっちのロッヂ」に行くきっかけづくりは藤岡さんの役割になるのかもしれませんね。

藤岡:この地域の人たちが病院に行くとなると、大抵は市街に出ることになります。だからこそ訪問診療やデイサービスを提供できる施設にしていくつもりです。この地域に根を下ろすために、今年(2019年)の春には軽井沢町に引っ越します。

左近:ええ、家族そろって、ですか?

藤岡:私のこのプロジェクトの成功の鍵は家族をいかに巻き込めるか?というところで、夫の「イエス」をもらうところから始まっているんです(笑)。彼は会社勤めをしていますが、もう私のことをよくわかってくれているので。

左近:課題をクリアして大勢の人が集まるようになったら、おもしろい事例になりますよね。軽井沢町の子どもたちと、どのようにつながって交流していくのかにも興味があります。

藤岡:こうした活動をしていると、「意識高い」と思われることもあるのですが、実際の福祉や介護の現場ってとても泥臭いし、人間臭い。「休憩室の人間関係」といってピンとくる方ならわかっていただけると思うのですが、閉ざされた空間で毎日同じ人といる環境って閉鎖的ですよね。だから空気が淀みやすい。介護虐待も、そうした空間の中で起こるものだと私は思うんです。

左近:介護の仕事ってイメージ悪いと思っている人はいるし、藤岡さんのように積極的な活動をされている人を見て、「キラキラしてる」とか変なイメージをもつ人もいるかもしれない。それって、自分事じゃないからだと思うんです。他人事でいられる今はまだ、ある意味では幸せなのかもしれませんが……。でも、誰もが考えざるを得ない時代はくるわけで。

藤岡:そうですね。

左近:福祉のイメージの向上って、本来は関わっている人すべてがやるべきこと。でも内部にいる人ほど、専門的な資格や知識をもっているがゆえに「◯◯はできない」と思ってしまったり、新しい発想を逆に遠ざけたりすることがあるかもしれない。
でも、僕はそこを変えていきたいと思っているし、福祉という仕事の価値を高めたいという思いで活動しています。藤岡さんがやろうとしている開かれた空間を作ることと近いと思っています。

藤岡:本当に賛同します。そう、今、「ほっちのロッヂ」プロジェクトのクラウドファンディングをやっていて(編集部注:募集期間〜2019年3月18日)。「ロッヂャー」と私たちは呼んでいるのですが、仲間を集めています。
軽井沢町に住んでいる人も、そうでない人でもいい。ここで働きたい!でもいいし、この場を使って新しい事業を始めたいという人でもいい。単に応援してくださるだけでもいい。とにかく、おもしろがってくれる外の人を巻き込んでいきたい。
福祉や介護に直接関係ない人も巻き込んで、淀みのない現場にしたいなと思います。

左近:僕は、これからの日本はパワフルな女性が変えていくんじゃないか、と思うときもあって(笑)。僕の母も非常にパワフルなんですよ(笑)。昔からある制度などの枠組みによって、藤岡さんたちがやろうとしている新しい試み、新しい働き方が制限されないようにしたいですよね。
新しいことをやるのはもちろん男性でも女性でもよいのですが、こうした試みをどんどん発信して、ムーブメントを起こしてほしい。やっぱり、世の中を変えたいとただ思っていても、そう簡単には変わらなくて。まず当事者である自分が変わるしかないから意思を持って行動するしかない。

藤岡:究極を言ってしまうと、本当にそうです! だから自ら実践するしかない。

左近:だからこうした表現につながっているわけですよね。今日は本当にありがとうございました。藤岡さんのこれからの益々のご活躍、大いに期待しています!
藤岡聡子
Satoko Fujioka
福祉環境設計士
1985年徳島県生まれ、三重県育ち。小学6年生のときに内科医であった父の他界を経験し、日常の中に死と向き合う場がないことに違和感を覚える。映画『崖の上のポニョ』で、デイサービスと保育園が併設されている場のシーンを見て、こういう場をつくりたいと一念発起。24歳のとき友人が立ち上げた介護ベンチャーの創業メンバーとして、全50床の住宅型有料老人ホームを開設。2015年にデンマークで幼児教育や高齢者住宅などを視察したのち、同年11月、「福祉の再構築」をミッションに活動する株式会社ReDoを起業。自身の経験を軸に「人の育ち」「学び直し」「生きて老いる本質」をキーワードに活動している。2017年4月〜2018年2月、東京都豊島区長崎地区で「長崎二丁目家庭科室」を運営。2020年4月を目標に、長野県北佐久郡軽井沢町発地地区で診療所、通所介護施設、病児保育、訪問看護ステーションの在宅医療拠点「ほっちのロッヂ」を開業予定。
山本左近
SAKON YAMAMOTO
さわらびグループ CEO/DEO
レーシングドライバー/元F1ドライバー
1982年、愛知県豊橋市生まれ。幼少期に見たF1日本GPでのセナの走りに心を奪われ、将来F1パイロットになると誓う。両親に土下座して説得し1994年よりカートからレーシングキャリアをスタートさせる。2002年より単身渡欧。ドイツ、イギリス、スペインに拠点を構え、約10年間、世界中を転戦。2006年、当時日本人最年少F1デビュー。2012年に日本に拠点を移し、医療法人/社会福祉法人の統括本部長として医療と福祉の向上に邁進する。2017年には未来ヴィジョン「NEXT55 Vision 超幸齢社会をデザインする。」を掲げた。また、学校法人さわらび学園 中部福祉保育医療専門学校において、次世代のグローバル福祉リーダーの育成に精力的に取り組んでいる。日本語、英語、スペイン語を話すマルチリンガル。

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